知的財産権とPDFの考え方
 全日本印刷工業組合連合会 官公需対策協議会は、このたび、印刷業務に関する知的財産権とPDFについての考え方を発表した。

1.契約上の問題
 一般的な契約上の観点から言えば「印刷物の製作・納品」を目的とする契約においては、印刷用データやPDFの納品義務は生じません。しかし、印刷用データやPDFが当初契約の目的物に含まれる場合、当然のこととして納品の義務が生じます。しかし、その場合においても、印刷物の付属物(おまけ)という考え方でなく、契約目的物という考え方に立ち、印刷物とは別の制作対価を求めることが望ましいと言えます。

2.知的財産権とPDFの関係
 PDFは厳密に言うと知的財産権に含まれるものでなく、所有権としての「版面権」(出版社を保護するための「版の権利、版面の権利」、簡単に言うと「書籍の版面に対する権利」)に近いものと考えられます。仮に印刷データをPDFに変換しても、そのこと自体によって印刷会社に著作権等の知的財産権が生じるものではありません。
 極一部、例えば百科事典や新聞紙面など、編集やレイアウトの工夫により“編集著作権”という編集作業等に対し発生する著作権が考えられますが、この編集著作権が認めれられることは現実的には非常に稀なのが現状です。

3.大きな問題(PDFに含まれる著作物と著作権の適正な許諾処理)
 例えば官公需などでPDFの納品を迫られた場合、印刷会社にとって一番危機なのが、そのPDFに含まれるテキスト・写真・イラスト・地図などの著作物(著作権)の権利処理の問題であり、少なくとも次の確認と許諾が必要になってきます。
【確認】 PDFに含まれるテキスト・写真・イラスト・地図などの著作物(著作権)のそれぞれの権利者の確認と整理。
【許諾】 印刷物(著作権でいう複製権)への使用許諾から、PDF(印刷物とは違う)への利用許諾や、さらには相手先によってホームページへのアップなどが想定される場合、公衆送信権という複製権とは別の著作権の使用許諾。このような場合、写真やイラストの利用など、一般的には別料金が発生します。
 上記の確認や処理を怠って著作権者から侵害を問われた場合は、これまでの判例によると印刷会社の責任が問われるケースが多くなっています。
東京地裁平成16年6月25日判決 平成15年(ワ)4779号「立体イラスト事件」
 「被告は、書籍の編集、出版等を業としている株式会社であり、その編集、出版する書籍が他人の著作権や著作人格権を侵害することのないよう注意を払い、かかる侵害に該当しないことを確認する義務を負うものというべきである」

4.まとめ
 上記の理由から、発注者からPDFの納品を求められた場合、少なくとも、〔1〕PDFが契約対象物であるか否か、また、対象物である場合はその対価を協議する、〔2〕元々は印刷物への利用許諾(複製権)に過ぎないので、その他の利用に関しては、さらに別途の著作権利用許諾が必要となり、その費用もかかること、などを説明し、仮にPDFを納めても、その利用は著作権法上で大きく制限されること(事実上、利用できないこと)を説明することが必要となります。

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