第5回 
『年金を受給しながら働く場合の
 注意点等』

 つい先日のことですが、税理士さんから65歳になる社長さんの年金について相談を受けました。せっかく年金を掛けたのだから65歳からは、年金を全額貰い、報酬をその分下げたいという内容です。
 これまでは65歳以降現役で働いていても年金は満額貰えたのです。それが平成14年度から65歳以後の在職老齢年金制度の開始、更に、今年度からは70歳以上の方も現役で働いたときに賃金と老齢厚生年金の合計額が、48万円を上回る場合には老齢厚生年金の全部又は一部が支給停止となる「在職老齢年金」の対象となってしまいます。(平成19年4月1日において70歳以上の人については適用されません。)
 このように頻繁に改正していく年金加えて度重なる年金問題に年金受給権者であれば、年金を全額貰いながら働けないだろうかと思い浮かぶことでしょう。
 現在「在職中」であれば、年金は全額停止若しくは一部停止がほとんどです。そこで今回は視点を変え「年金を受給しながら働く」ことを主眼に据えて事例を確認してみることにしました。
《ケ ー ス》 役員Aさん59歳(厚生年金34年加入)は、被扶養者の妻と二人暮らし。
会社は65歳までの再雇用制度を導入。年収は原則60歳到達時の6割程度である。
《相 談 内 容》 年金を全額受給し働きたい!60歳定年後の選択肢は、これまでの経験を活かし友人と共に独立を検討中である。しかしながら迷いもある…。
◇◆◇60歳以降年金を全額受給しながら働くことは可能か◇◆◇
(1) 独立するなら「法人」より個人でスタート!
 株式会社など法人格のある組織での独立は、社会保険の強制加入となり、社長であっても厚生年金は在職老齢年金の対象となります。しかし、個人開業で加入要件を満たしていないと、原則社会保険に加入することができません。結果として年金は全額受給となります。
(2) 定年後は労働関係法令を遵守し「個人請負」で契約!
 業務請負は仕事の結果だけを求められ、労働時間等束縛されません。また他社との兼業も可能です。但し、会社退職後は労働者ではないため労働法の保護もありません。勿論業務災害の補償もありません。結果として社会保険には加入できないので年金は全額受給となります。但し、実態が労働者と同じである場合等は該当しません。そのため「仮装自営業者」「偽装請負」とならないよう慎重に見極めることが重要です。
(3) 在職中であっても短時間勤務者は社会保険に加入できない!
 働く時間の長さや日数によっては社会保険に加入できません。そのため結果として年金が全額受給となります。加入基準は総合的に判断されますので事前の確認が必要です。
(4) 社会保険等への加入はデメリットなのか!
 Aさんがフルタイムに近い状態で再雇用された場合に、妻(被扶養者)は満60歳まで今と同じく国民年金第3号被保険者です。そのため妻の国民年金保険料の負担はありません。またAさんは、年金停止等が行われたとしても退職後の年金額は少なからず増加します。また何よりも労働者として保護されます。
ワンポイント
 注意点は、社会保険の加入基準を満たしているのに未加入がわかった場合、保険料は遡って徴収され年金受給者は本来減額されたはずの年金を返還しなければなりません。
小松社会保険労務士事務所 社会保険労務士 小松勢津子

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