平成22年度第1回経営者研修会
「実践!今日から始める業態変革ワンストップサービス」
〜業態変革は印刷業の代名詞〜

全日本印刷工業組合連合会 業態変革推進企画室委員長 萩 原  誠 氏
 平成22年度第1回経営者研修会が、6月11日午後1時30分から札幌市中央区のエイト会館で全日本印刷工業組合連合会の萩原誠業態変革推進企画室委員長を講師に迎え、「実践!今日から始める業態変革ワンストップサービス」〜業態変革は印刷業の代名詞〜をテーマに50余人が参加して開催された。
 以下、講演の内容の抜粋を紹介する。
(文責:編集部)

萩原 誠氏
印刷会社にとっての業態変革の歴史

 本日のテーマである「今日から始める業態変革ワンストップサービス〜業態変革は印刷業の代名詞〜」について話をさせてもらう。先ず、印刷業者にとって今まで業態変革はどうであったのかという歴史を振り返って見ると100歳以上の印刷会社が全国で223社ある。そのうち9人以下が74社、50人未満が88社ある。長寿企業の業種別ランキングでは清酒製造、旅館、和菓子製造は100歳以上の会社が多い順である。そういった中で印刷業が12位にランクされている。印刷業のように機械を持って製造をする業態が12位にランクされているということは結構順位が高いのではないかと思っている。これは我々印刷業の先達がお客様や社会の信頼を裏切らずに身の丈にあった経営を持続して戦争や不況を乗り越え、時代や環境の変化に適応して業態変革を続けて来た証ではないか。これが「業態変革は印刷業の代名詞」といわれる所以である。

印刷業界を取り巻く環境の変化

 昨年の11月に業態変革実践ガイドブックVer.2が刊行された。私の前任者である花崎委員長の下で委員会の皆さんが作られた。私はこれを読み非常に内容が濃く本当によく出来ていると感心している。今後の印刷会社のシナリオというかバイブルと言えるのではないか。いろいろなことが盛り込まれているので、多分読んでいると思うが、もしまだ熟読されていない方がいたら是非読んでもらえればと思っている。昨年の11月に刊行されてから今年になりいろいろなデータが出て来た。この時はまだ印刷や印刷関連業の売上げ等のデータが出ていなかったが、そういったデータが全部出て来た。2008年度は印刷の出荷額が6兆8,600億円あった。2009年度は6兆3,100億円ということで約5,500億円ダウンしてしまった。JAGATの2010年度予測はもう少し落ち込むと予想されている。メディアの多様化による日本経済に占める印刷産業のシェアの低下であるが1990年に印刷業の出荷額は8兆9,000億円あった。その時は対GDP比率1.92%あったが2007年では1.27%に落ち込んでいる。2009年度は6兆3,100億円であるのでこれよりもかなり下がっている。印刷業が日本経済に占める割合が低下して来ている。
 印刷物の単価、価格の低下は皆さんも肌で感じていると思うが印刷物の価格の低迷は2005年以来右肩下がりで続いている。逆に物価は2008年11月にリーマンショックで大きく下がったが今は上がって来ている。印刷物の価格の低迷が続いているので我々の利益がなかなか出ない。皆さんも実感されているのではないか。

出版物2兆円割れ

 私の仕事は出版印刷であるが出版物も2兆円台を割っている。1兆9,356億円という数字になっている。全体では4.1%減である。特に雑誌が1兆864億円で3.9%減、雑誌は広告の収入が大きく、そこがかなり落ち込んでいる。書籍も8,492億円で4.4%の減である。1988年の水準に逆戻りしてしまった。新刊とリピートオーダーの再版という仕事がある。今までは新刊を50%追いかけて再版が50%というのが流れであったが、最近はなかなか再版のリピートオーダーがないので1回初版で刷ったきりという仕事が結構多い。出刊としては8.5対1.5で新刊ばかり追いかけている。本当にたまに当たったといって再版が出るという傾向である。雑誌も10年連続の減少である。販売部数も過去最大の落ち込みで6.9%減になった。休刊も増加した。価格の改定も安くした雑誌が250誌。特に女性雑誌に多いが付録を添付する雑誌が最近増えて来た。おまけを付けて雑誌を売る傾向が多くなって来ている。創刊は135点で42点の減で1990年以降最低である。書籍の新刊点数は2.9%増。増であるが増えたからといってもあまり嬉しくない。あまりに多過ぎて書店で棚に置いている時間がない。新刊を出版社が出しても書店の棚に置く間もなく返品というケースがある。非常に流通が悪くなっている。出版業界には取次という本の流通の業務があり、日販、トーハン等が取次の仕事をして日本全国の書店に本を届けている。取次に出版社が本を納めるとそこで一度お金が入って来る。取次は本の流通だけでなく金融業、所謂銀行のような仕事もしていて、一度新刊を入れると出版社にそこでお金が入る。売れないと返品となって戻って来てそのお金が実質的には入って来ない。新刊を出すと一度お金が入るのでまず作って入れる。返品になって戻って来るということで負のスパイラルの循環になっていることからも出版業界が非常に悪いと言われている。

広告不況

 我々印刷の隣の広告業界は2桁マイナスが常態化している。出版、印刷よりもさらに深刻な状況になっている。広告業界は大体7兆円で印刷業界も大体7兆円であったので同じ水準で来たがそれが昨年5.9兆円で11.5%減と非常に落ち込んでいる。したがって電通、博報堂も赤字となった。マス4媒体の広告費の状況であるが、マス4媒体の広告の順位が変わって来ている。テレビは前から1番であるが、2006年ネット広告が雑誌広告を抜いた。2009年には新聞広告を抜いて第2位にネット広告がなった。インターネットの利用者数・利用時間が伸びて来た結果、媒体としての価値が認められ、広告が増えて来ている。また通販売上額も順調に伸びている。勝ち組、負け組がはっきりしたというのが昨年の広告業界の現況である。

iPad上陸

 iPadが5月28日発売された。2008年度、電子書籍は464億円の市場であった。464億円のうち携帯向けのコミック・文芸が非常に大きく402億円になっている。携帯向けの文芸はH系が多く女性の方が多く読まれている。アクセス時間は夜の11時から12時というデータが出ている。iPadの日本語版が出て来る。そうなるとかなり変わって来ることが予想される。Kindleはなかなか優れものである。Kindleは通信回線を持っているのでインターネットに何処でもアクセスすることができるのでどこでもダウンロードするこができる。本を買って課金をカードでするとか通信をいちいち契約しなくてはならないとかそういった手間をKindleの中でやってしまっているので、表向きには瞬時に本を買うことができてしまう。アメリカでハードカバーの本を買うと25〜30ドル位であるが、Kindleはどんな新刊も9ドル99セントで売っている。アマゾンドットコムが市場戦略で9ドル99セントに決め販売をしている。価格の決定権をアマゾンが取ってしまった。今までは価格の決定権を出版社が持っていた。日本においても価格の決定権をアマゾンやアップルに取られるのではないかと出版界も神経を使っている。アメリカで「7つの習慣」という非常に大きなベストセラーがある。スティーブン・R・ゴヴィーさんという方が書いて全世界にヒットした。去年の11月に衝撃的なニュースが飛び込んで来た。キングベアー出版という大手の出版社が紙の本の媒体で出していたが、電子の書籍にしたらアマゾンドットコムと契約することになった。もしこうなってしまったら、紙の本を作る時は編集の人と著者の方とデザイナーが皆で協力してより良い本を作る努力をしているのに、電子の書籍になったら全くそういったことは関係なくなって急に端末の方に持って行かれる。そういったことが日本に聞こえて来て、日本電子出版書籍協会を31社で立ち上げた。講談社、小学館、集英社など大手の出版社が入っている。価格の決定権、著作権等いったものを自分達で守ろうということで活動している。電子書籍が話題になっているが裏側では権利関係が大きな問題になっている。iPadは非常に綺麗な画面でよくここまで作っていると思う。いろいろな本のコンテンツを見てもただ単に本をそのまま読むのではなく動画が入ったり、絵本などは塗り絵ができたりいろいろなことができる。紙の印刷とは違いかなり付加価値ができている。出版だとか電子書籍だけでなく医療関係では電子カルテ、教育関係では総務省が2015年に小中学校の教科書を電子書籍にすると発表した。これも印刷会社では問題になっている。ゲームもできるし、ビジネスにも使えるのでいろいろな形で使われて来る。

電子書籍元年

 今年はこういった形で業態変革の話を昨年に続いて話をさせてもらうが、来年は紙と印刷と電子のメディアが如何に共存するかをテーマに研究して行きたい。昨日、日本紙卸商の総会があり、花崎前委員長と私とシオザワという紙商の社長さんでパネルディスカッションを行った。テーマは「2020年に紙と電子はどう共存するか」という重たいテーマであったが、いろいろな考え方がある。凸版印刷の子会社でビットウェイという電子書籍の取次があり、そこの社長さんと話をしていたら今話題の龍馬伝の龍馬を書かれた司馬遼太郎さんの本はビットウェイでは1冊も売れていないということであった。コンテンツによって本で読んだ方が良いというものもあるし、電子の方が良いものもある。まだまだこれからだと思う。私は印刷会社であるので当然紙が売れなければ困る。電子書籍もお客様の要望によって作っているが紙の本の良さが絶対にある。触った時にカバーがあって、表紙があり、ページをめくる手触り、行間がありフォントがあり読み易い、そして自分の所有物として使いたいという時には必ず紙の本になる。紙の本のすばらしさはハードとソフトが一緒になっていることである。iPodやiPad、Kindleは必ずデバイスが要る。今はiPadであるが後5〜6年するとまた新しい商品が出て来て、同じコンテンツが同じように読めるかどうか分からない。アメリカのソフトの歴史を見てみると組版ソフトは最初がPagemakerでありその後何年か経ったらQuarkXpressが出て、今はIndesignが浸透している。また必ず違うものが出て来る。互換性がない歴史的な変遷が結構ある。そういったことを考えると紙はハードとソフトがくっ付いているので何時誰が何処で読んでも同じものが読めるというすばらしさがある。1つの例であるが紙のすばらしさをユーザーに知ってもらうのも業態変革推進企画室の仕事だと思っている。こういった新しいものが出て来るとどうしてもそちらの方に目が向くので、そこは丁寧に調査分析して逆に棲み分けして、時には手を握り時には差別化して紙と電子と共存して行くようなことを勉強して行きたいと思う。iPod、iPad、Kindle等が出ているがこれからまだまだ出て来る。ソニーリーダーが出て来るし、KDDIも出るし、サムソンも安い価格で出て来る。パーンズ&ノーブルはアメリカの書店で日本でいうと紀伊国屋くらいの大きな書店である。そこがNookという電子出版物を出して来る。こういうものが出て来ると何が違うかというとコンテンツが身近になって来る。本の読まれ方も少しずつ変わって来るかもしれない。今年は電子書籍元年と言われている。

500年に1度の情報革命

 2008年計画から2010年計画へで、第1ステージ業態変革ミニマム、第2ステージ原点回帰、第3ステージ新創業ワンストップサービスと来て、2010計画では業態変革推進から実践でワンストップサービスで収益拡大になっている。本年度は2010年計画を実践実行する年と思っている。今年になってからいろいろな事例が出て来た。これだけ落ち込むのは2年前のリーマンショック以来の100年に一度の景気不況ということではないと思っている。メディアを比較されてどのメディアがお客様にとって有効かというようなことになって来ている。お客様の方もどのメディアに出すかということを真剣に考える。そういう意味では今から500年前にグーテンベルグが活字の印刷機を作って以来500年に1度の情報革命の真っ只中に私たちはいるのではないかと思っている。そういった意味でこれからのことを真剣に考えて行かなければならない。何となく少し余裕があったが逆にこういう状況になると早く業態変革を推進して行かないと間に合わないということになる。「今日から始める業態変革」と名前を付けたのも、出来るところから始め、少しでも早く皆で取り組んで紆余曲折もあるが前向きにやって行くということである。

ワンストップサービスに対する誤解

 業態変革ワンストップサービスガイドブックVer.2は、本当に良く出来ている。2010計画の集大成であり、業態変革の豊富な事例の紹介もあり、ワンストップサービスの誤解を解く業態変革推進企画室委員からのメッセージが掲載されているので是非読んでもらえればと思う。
 ワンストップサービスの考え方にいろいろと誤解があるようである。こんな時こそワンストップサービスである。売上げ減少・印刷単価下落の今こそ周辺領域を取り組む。あらゆるニーズに応えることで顧客満足向上へ。価格ありきの過当競争から脱皮を。しかし、ワンストップサービスに対する誤解も多い。地方印刷会社は総合印刷会社が多くすでにワンストップサービスを実践している。差別化が必要な今こそ「ワンストップサービス」から「専門特化」への転換が必要である。経営資源は限られている。不況の今こそ「選択と集中」が必要ではないか。企業規模が小さく新たな設備投資が出来ない。こういったことから、全ての設備を整えなければならないのか。小規模の会社もワンストップサービスは可能か。ワンストップサービスでは「何でも屋」になってしまって差別化が図れないのでは。いわゆる「刷り専業」でもワンストップサービスは可能か。一番の誤解は製造のワンストップサービスが必要という考え、製造イコール一貫体制、総花的な設備投資が必要でないかということに誤解がある。本当は営業においてワンストップサービスが必要ではないか。製造はコラボレーションを活用する。お客様からいろいろな仕事、相談が来る。これは出来ない、これはちょっとと今は言っている場合ではない。製造を今は全部自社でやることは出来ないので、組合の仲間とかいろいろなところとコラボレーションしてお客様のワンストップサービスの要求に応えて行く。営業のワンストップサービスをやり、製造は専門特化しようというのが結論である。専門性と多様性が必要だという考えである。

業態はステップアップする

 業態はステップアップする。印刷加工製品を作って来た「製造業」の現状は入稿から納品までの狭い範囲で仕事をしていないか、課題は生産性の追求だけで自社を救えるか、今後はお役立ちの機能を提供する。顧客サポートを実現する「サービス業」の現状は本業にプラスして2.5次産業に、課題は本当に顧客の背中を押せるサービスか、今後は収益拡大目指して自ら提案する。印刷業だけの強み「メディア・プロフェッショナル」の現状は土台となるのは「印刷メディア」、課題はメディアコンテンツで支援できるか、今後は印刷メディアを生かして仕掛ける。ここまで行けば素晴らしいと思うが印刷業が目指す方向は「ソリューション・プロバイダー」の現状は顧客からの相談に応じ即、実行、課題は価値を共同で創造する体制、今後は課題を解決できるパートナーになる。ビジネスパートナーとしてお客様に認めてもらえるかどうかである。この真ん中くらいにいるのが私達でこれをレベルアップして行くという考え方である。
 商業印刷、出版印刷、情報印刷、業務用印刷、パーソナル印刷、印刷営業専門、刷り専門会社どれにおいても業態変革で対応することができる。
 ワンストップサービス・ソリューションマップがVer.2の目玉である。それぞれの印刷会社で出版印刷や商業印刷等に分かれているが、川上から川下へいろいろなサービスがあるので自分の会社でどういうことに取り組んで行くのかということを先ず考えてできるところから始めてほしい。

業態変革事例5つのパターン

 業態変革の実践事例も5つのパターンがある。地域ともに生きるビジネス戦略、市場エリア拡大ビジネス戦略、独自商品を開発するビジネス戦略、ドメインをシフトするビジネス戦略、CSR経営をめざすビジネス戦略がある。
 業態変革Ver.2の中から、地域に生きるビジネス戦略の事例としてハリウコミュニケージョンズ(宮城県)、利根川印刷(東京都)、市場のエリアを拡大する戦略の事例として大六印刷(岐阜県)、西日本ビジネス印刷(福岡県)を紹介し、Ver.2に掲載されていない事例としてフラッパー折の製造・販売権を取得した美創印刷(東京都)の事例を紹介した。
 全印工連で全青協という若者の会がある。そこから「業態変革への挑戦100選」が出ている。Ver.2でカバー出来なかった業態変革のいろいろな事例が出ているので是非見てほしい。
 この中から、秋田印刷製本(秋田県)、清水印刷(和歌山県)、サンライズ出版(滋賀県)の事例を紹介した。

それぞれの業態変革

 いろいろ話をしたが最初に話したように業態変革Ver.2を是非読んでほしい。100選も読んでもらえれば必ずヒントがある。全印工連6,400社あれば6,400とおりの業態変革がある。今の事例は自分たちの会社に直ぐ取り込めるというものではないがヒントがある。歴史も違う、規模も違う、業態も違う、そんな中でヒントがある。明日の発展のために今日から業態変革に取り組み始めようということである。皆で頑張って乗り切って行こうではありませんか。

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