「私が実践した業態変革・ワンストップサービス」
業態変革実践フォーラム
 2008全日本印刷文化典in鹿児島の業態変革実践フォーラムが、10月18日午前9時30分から城山観光ホテルで、「私が実践した業態変革・ワンストップサービス」をテーマに開催された。
 フォーラムの中でパネルディスカッションが行われ、業態変革推進企画室の瀬田章弘委員(弘和印刷(株)社長・東京)がモデラーを務め、岸昌洋氏(正文舎印刷(株)社長・北海道)、山本順也氏(大兼印刷(株)社長・大阪)、平林満氏(平林印刷(株)社長・福井)、荻野隆氏(太成二葉産業(株)社長・大阪)の4人がパネラーを務めた。

 大兼印刷(株)は、従業員7名、印刷設備は持っていない。山本順也社長は、大手印刷会社に9年間勤めたあと実家に戻った。バブル崩壊の直前の時期であり、みるみる売上が減少した。山本社長は、2002年にすがる思いで大阪市が主催する「社長道場」に3ヵ月間入塾した。そこで異業種の社長たちと道場主から経営者としての自分の甘さを徹底して突かれ、一念発起した。
 新規開拓営業に乗り出すものの、マーケティングの何たるかを知らないままの飛び込み営業ではまったく成果を出せなかった。顧客の売上支援につながる勉強を地道に続けるうちに、だんだんと顧客から相談される印刷会社に変わっていった。今では、コンサルティング業に近い業態となり、飲食業者などの販売促進の手伝いをしている。年間数十件の新規開拓も行っている。
 山本社長は、「業態変革という言葉が先にあったわけではない。やらざるを得なかったから取り組んだだけ。社長道場で厳しい言葉を投げつけられ、『なにくそ、負けるものか』と闘争心に火が付いたことが変わるきっかけになった」と話した。
 また、全国青年印刷人協議会の副議長も務める山本社長は、「同じ悩みを持った仲間と語り合うことで大いに励まされた」という。
 全青協が取り組むメディアユニバーサルデザインを自社の提案営業にも採り入れ、小規模ながら大手企業に出入りするきっかけを得ている。
 平林印刷(株)は、福井県の永平寺町に本社を置き(10月に福井市に本社移転)、官公需を中心に営業してきた従業員13名の会社。23歳で平林満社長が実家に戻った15年前は売上は1億円ほどであった。
 仕事に行き詰まりを感じた平林社長は、猛烈な営業ぶりで顧客を獲得していくが、経費と売値を考えるとほとんど利益が残らなかった。また、仕事の激しさに社員がついてこられず、50人ほど入っては辞めていった。
 オペレーターが辞めたことをきっかけに、インターネットを活用した印刷とノベルティ製作の専門会社に転身。現在は、6つの専門サイトを運営し急成長。全国5千社と取引がある。2009年3月期は10億円の売上、1億円の経常利益を予想。2013年の株式上場を視野に入れている。
 同社は、年間5千万円の広告宣伝費を使って知名度を高めるとともに協力会社との効率的なネットワークにより、セールスプロモーションから宛名印字、印刷、加工、発送まで一連のサービスを提供している。2007年には女性10名からなるコールセンターも開設し、実質的な営業窓口として機能している。
 太成二葉産業(株)は、もとは表面加工専業者だったが、1995年に印刷機を導入。現在は高付加価値印刷と表面加工の技術を併せ持った会社として他社にない強みを発揮している。
 荻野隆氏は36歳で3代目の社長に就任。印刷会社が表面加工を内製化し始めたことに危機感を抱いて印刷機を入れることを決断した。しかし、印刷機を入れてもすぐに過当競争にさらされる。そこで印刷と表面加工の両面から自社の独自性を追及した。
 2005年に導入した菊全6色機は、オフセット印刷ユニットの前後にフレキソコーターユニットを配置した特別仕様機。2007年にはコーター付きの7色機も加え、高付加価値印刷に磨きを掛けた。
 荻野社長は、表現手段としての印刷にまだまだ大きな可能性を感じている。お客の心をそそる高付加価値印刷のサンプル製作にも力を入れており、積極的に印刷の高い価値をアピールしている。装置を含め多額の投資にはリスクも付きものだが、「あえてリスクを取ることで他社が真似できないオンリーワンの製品を生み出せるメリットがある」と話す。
 一時は年商10億円を切りそうな苦しい状況もあったが、今では20億円ほどに戻している。
 札幌の正文舎印刷(株)は、長く官庁関係の文字物印刷を主力としてきた従業員38名の会社。地元経済の疲弊や入札制度の変更などから売上が急減。どん底からの再挑戦で復活を果した。
 家業を継ぐ気のなかった岸昌洋社長は、父親の病気を機に入社するが、経営をめぐって父と口論が絶えなかったという。
 思い切ってこれまでの印刷会社の発想を捨て、2007年に(株)WEBサクセスというWebソリューション会社を地元のIT企業との共同出資で設立した。同社は北海道外の取引先がほとんど。地域にとらわれない新規顧客開拓を進めている。
 印刷を軸としたワンストップサービス展開とともに、Webソリューションを切り口とした顧客の販売促進支援を行えるようになった。
 岸社長も全青協の副議長を務めている。活動を通じて多くの業態変革のヒントと経営者としてのあり方を学んでいる。
 パネルディスカッションのまとめにあたりモデラーの瀬田氏は、「パネラーのみなさんは、決して恵まれた環境の中に置かれているわけではない。むしろ、逆境を跳ね返すことで変革を遂げてきた。そして、現在進行形でなお業態変革への挑戦を続けている。『成功』の反対語は『失敗』ではなく、『何もしないこと』だと言われる。今日の話を参考に、新しい一歩をぜひ踏み出してほしい」と促した。
 パネラーを務めた4社は、業容はそれぞれ大きく異なっている。しかし、経営者みずから先頭に立って新しいことにチャレンジし、会社をグイグイと引っ張っている点は共通している。

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