印刷燦燦
二月の或る日

常任理事・旭川支部長 谷川  敞
谷川印刷株式会社代表取締役社長

 一週間降りつづいた雪も止み、貫けるような青空が拡がった日曜日の朝。20年来通い続けている旭岳へスキーに行くことを思い立った。息も詰まるような、自分が巻き上げた粉雪の中を滑る快感に、胸躍らせながらの道中だった。青空の中に目指す山々は、凛として、神々しいまでの姿で迎え入れてくれようとしていた。ゴンドラの駅舎はいつになく少々混雑していたので、ちょっと不安な気持ちが頭の中をかすめた。
 「いざ、柔らかなパウダースノーの世界へ」と、昂ぶった気持ちが、ゴンドラに乗った瞬間に掻き消されてしまった。全山、シュプールの跡・跡・跡…。トドマツの林の中も、崖のそばも、何時も滑っている大切にしていた場所も、いたるところがゲレンデのように、滑った跡で埋め尽くされているではないか。数年前まではコース外には、物好きしか入らなかった場所さえもである。
 温暖化の影響によるものなのか、積雪の量も少なく、せっかく降った雪も風に吹き飛ばされ、這い松が顔を出している光景が、年々多くなってきている。情報が行き渡り、ボーダーもスキーヤーも、また、様々な年齢層が気軽に楽しめる時代になったことを感じさせられ、今までは山岳スキーヤーの聖域であった所が、誰にでもオープンになったことも。
 粉雪にまみれている間だけは、仕事から離れ、我を忘れて楽しんだことが遠い昔のことのように思われた。自分たちの聖域だと思っていた業界が、他の業種から侵食され、程々に存在した仕事の量も年々減少していく姿は、その日の旭岳の光景とダブってしまった。
 生き残るためには個々の企業が努力することは第一ですが、同業者間での連携と協力も更に必要な時期に入ってきていると考えます。少しの仕事を奪い合えば、熾烈な争い、価格低下をまねき、自滅の道を進むしかありません。いま一度、見つめ直すことが大事な時かと思います。
 幸いにも、8月には3年ぶりで北海道情報・印刷文化典が帯広で開かれます。同業間の結束を強め、親睦を図る良い機会と考えます。また、洞爺湖サミットでは、温暖化の問題も採り上げられ、地球規模での対策を検討されるでしょう。自然の中に入ると、年を経るごとに環境が少しずつ変化していることを感じさせられます。
 充実した仕事が出来る環境と、柔らかい粉雪の中でいつまでも楽しめる環境が維持できることを願って止みません。

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