日印産連「印刷産業市場規模予測」発表
2015年は10兆1,662億円
 (社)日本印刷産業連合会は、「日本の印刷産業規模<予測>」をまとめ、その概要を発表した。同連合会設立20周年事業の一環として2005年7月から特別プロジェクト「印刷産業市場規模研究会」(座長=草野司朗・凸版印刷経営企画本部グループ企画戦略部長)を立ち上げ取組んできたもので、2000年にまとめた印刷産業の将来ビジョン「Printing Frontier21(通称PF21)」との数値乖離(かいり)を見直し、電子部品関連など工業統計に含まれていなかった製品・サービスも勘案、経営者アンケートも含めより多くの関係者の納得のいく諒解値を期し、2000年の数値を土台石として将来予測を行った。この結果、2005年の印刷市場規模は8兆8,521億円(2000年比1.76%増)と推定され、安定成長のもとで新製品・新サービスの投入により、2010年には9兆4,878億円(同9.07%増)、2015年は10兆1,662億円(同16.87%増)と予測している。
 なお今回の予測数値は、楽観値と悲観値を算出、その中間値を「予測値」としたもの。

 2000年に15周年記念事業としてまとめた「PF21」では、印刷産業がソフト・サービス化し、デジタルメディアの領域を取り込んでいくことにより、2010年の印刷産業市場規模を約13兆円と推計していたが、その後の5年間で印刷業界は想定以上の厳しい経済環境に見舞われ、「PF21」と現実の数値の乖離が見られ、この見直し要望を受けて研究会を立ち上げ研究を重ねた。
 研究会は、工業統計の分類項目に加え、精密電子部品関連のエレクトロニクス分野、企画・デザインを中心とした印刷周辺サービス事業、デジタルメディア・ネットワークサービスの拡大に伴うソリューション事業のソフト・サービス分野などを積算対象とした。
 また楽観値と悲観値について「悲観値は、何もしなければこうなる、楽観値は種々の努力をすることによって得られる、というものといえる。今後印刷産業という『枠』がさらにゆるくなるかもしれない。製造業としてはかなりしっかりしているが、サービス業としてはまだであり、新しいモデル、新しいスタイルを確立することにより、目標値あるいはそれ以上の数値も期待できる」とした。
 今回の「予測」の方法としては、2000年の数値を礎石とし、従来の「出版印刷」分野の構成比を出版市場と印刷業界における分野別生産高等の検討により修正、工業統計に含まれていない印刷産業分野での数値合計に対して、どの分野にもはめ込めないものを「その他不明分」としている。この部分は印刷産業以外の「印刷製品・サービス」と考えられ、今後の市場規模研究の対象分野として究明していく課題としている。
 これらの結果、2000年比で2005年の市場規模は1.76%増の8兆8,521億円と推定され、以降拡大基調で推移すると予測、2010年度は2000年比9.07%増の9兆4,878億円、2015年は同16.87%増の10兆1,662億円になると予測している。
 分野別の予測数値は別表の通りだが、前掲の通り楽観的・強気に見る場合と、悲観的・弱気に見る場合を設定、その中間値をとって「予測値」として提示している。

 ●出版印刷市場
 2010年までのメディア環境は、地上波デジタル(2011年完全実施)、モバイル放送、ブロードバンドなどの新たなメディアが次々に登場してくる調整期であり、印刷市場への影響も大きいが、それ以降はメディア安定期に入る。
 2010年までは出版印刷市場はかなり影響を受けるものと想定されるが、印刷媒体の特徴をうまく活かし、メディアとのシナジーが展開できればシナリオの上方修正もありえる。
フリーペーパー、フリーマガジンのさらなる浸透で、出版印刷から商業印刷への市場シフトも考えられる。
 教科書等のその他市場は、依然紙媒体が主流で、デジタルメディアの影響は少ないが、少子化の流れは続き、市場規模としては減少傾向が続く。
 不確定要素としては、教科書予算、貸与制等の変更、ゆとり教育見直し、再販制の動向がある。少子化とは逆に高齢化が高まることで生涯教育拡大なども考えられる。

 ●商業印刷
 基本的には2010年までは増加傾向を維持、それ以降は安定期に入るものと考えられる。拡大要因としては(1)民営化の進行、(2)ディスクロージャー社会の拡大、新しいメディアの普及が想定される。民営化は市場競争を促進し、企業の広報宣伝活動拡大をもたらす。株式市場拡大、CSR報告書など企業活動のオープン化も商業印刷を拡大する。
 地上波デジタル放送等新しいメディアの登場は、かつてそうであったように、商業印刷にとっても追い風になる。フリーペーパー、フリーマガジンも成長していくものと思われる。
 不確定要素としては、将来の消費税導入による消費意欲停滞などが考えられる。
 宣伝・印刷物が今後とも増加傾向にある中で、年史、マニュアル、名簿等の業務用印刷物は、パソコンの普及やデジタル家電のネットワーク化などで減少するだろう。

 ●証券印刷
 株券や社債券等の廃止で株券・債権等「モノ」としての証券市場は縮小していくが、金券・商品券・入場券・身分証明書・パスポートなどのセキュリティ需要は拡大する。ホログラムやマイクロ文字等の技術を活かすことで、市場は基本的に維持されると思われる。
 証券分野は、金融機関のディスクロージャーとともに金融商品の市場導入や個人株市場の拡大、上場関連のコンサルティングサービスに伴う付加価値ビジネスが主流になっていくと考えられる。
 カード類印刷は、プリペイドカード市場は減少するが、ポイントカードや金融合体形提携カードなど様々な用途に活用されていくと思われる。ICカード、ICタグは、2010年まで急速に成長する。
 銀行キャッシュカードのICカード化は、2008年頃にピークを迎える。郵政民営化を2007年に迎える郵便貯金のIC化も近いと思われる。また年齢認証のためのタバコカードも2008年4月に導入され、公共サービス、交通機関にも幅広く浸透するものと思われる。
 カード・IC単体に加え、カードリーダー、プリンター、システム開発など周辺商材の取り込みも期待される。この市場は、Sierや電機メーカーとの競合やコラボレーションにいかに取組んでいくかが課題となる。

 ●事務用印刷
 伝票類は、IT技術導入により市場規模は減少していくが、2010年には安定するものと見られる。2015年に向けては、ネットビジネスの発展に伴う新需要も期待される。
 周辺市場としては、個人情報保護法関連で隠蔽はがきやセキュリティ関連技術が成長する。またDPS分野は今後も二桁近い高成長が見込まれる。当面はフルカラー・宣伝メディア化、1 to 1マーケティングツールとして活用されていく。この分野は、DMなど商品市場との壁がだんだん薄くなっていく。ICタグなど新技術も導入されていくと思われる。
 事務用印刷は、アウトソーシングにより印刷会社への仕事切り出しが進み、総需要としては変化はないものの、また印刷産業としては仕事量と範囲の拡大を生むものの、コストダウン、非印刷化の動きもあり、現状維持または微減と予測される。ノート、手帳、封筒、案内状等はネットワークやパソコンの普及で低減していくだろう。

 ●容器・包装印刷
 容器・包装リサイクル法など環境対応もあり、2015年まで減量化・低コスト化が継続し、総量・金額とも現状維持が上限と推定される。簡易包装化機能重視、コスト志向、安全性優先が基本のトレンドであろう。
 品種的には一次容器化が進み、紙器減、フィルム増が期待される。食品関係では、レトルト、無菌充填、電子レンジ容器等機能性容器などが普及していく。また高齢化による簡便な調理包装等も期待される。
 反面、メディアの多様化により、包装の持つ広告・販売促進効果が見直される可能性もある。

 ●特殊印刷
 建装材は、新築着工件数が減少し、リフォーム市場が拡大する。産業資材は、印刷技術を活かすビジネス領域として期待される。既にインクリボンや携帯電話の表面印刷等、実績を上げている企業もある。また地方の産業振興として、あるいはベンチャー事業として取組んでいるところも少なくない。いずれにせよ、顧客企業とともに開発を進めていく体制づくりが結果を産むと思われる。
 ここ10年印刷産業を牽引したのが精密電子部品への参入である。年率10%と急成長してきたが、2010年まではデジタル家電の成長は継続する。しかし、単価ダウンは大きく、従来に比べ、約半分程度の成長と想定される。2010年以降もほぼ同様と思われる。

 ●ソフト・サービス
 デザイン支援からはじまった印刷産業のソフト・サービス事業は、ネットワーク社会の進展やアウトソーシング需要の拡大で様々な領域に展開されている。
 商業印刷分野の企画・デザイン、キャンペーン事務局の運営、イベント、スペースデザイン、証券印刷分野のカード発行やシステム開発、包装分野の商品開発、充填事業を中心に、一括アウトソーシングや物流など、その展開は川上・川下に拡大しつつある。
 特に、属性別に細分化されたDPS、DM、通販、各種マガジンなどの封入、個別配送に至るトータルサービスが増大するものと思われる。川上から川下まで印刷産業からのソリューション提供ビジネスの本格化が期待される。郵政完全民営化も新しいビジネスモデルの新しい環境が整うとともに、他業界、海外企業との競争激化も不可避となってくる。この動きは大都市圏に留まらず、地方からの発信、参入が日常化され、各地の印刷産業にとっても大きな可能性への挑戦が期待される。


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