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「潜  在  力」

常任理事・経営革新委員長
川越  仁
川越製袋株式会社代表取締役社長

 何年前のことだろう、トライアスロンの大会(スイム2k バイク110k ラン42k)へ初出場の折のことだ。
 経験値がものを言う競技であるから、大会の一ヵ月前に本コースの試走を行った。大会本番は一日で消化をする距離を二日間で試みた。チームメイトが車で水や軽食の補給など、サポートをしてくれるなかで行われたわけだが、初出場の3名とすでにこのレースを経験して練習のために参加をした経験者との実力の差は大きく、その補給路の兵站は長く伸び、水が欲しいが飲めない状況下で渇きと疲労が募った折の話だ。私のレベルはと言えばスイムは松 バイクは竹 ランは梅以下なので、競技が進むにつれて順位が下がりヨレヨレのゴールとあいなる。その苦しいランの最中の話だ。サロベツ原野のひとっこ一人いない視界に入るのは牛だけの状況を目に浮かべて頂きたい。膝への衝撃を和らげる中敷がずれ、道端でシューズを直していて、あと幌延までは10kくらいという胸突き八丁の場所。そこへスピーカーをくくりつけた軽のジープがなにやら聖書の福音の一説を説きながら近づいてくるではないか。思わず周りを見渡すも存在するのは牛と私だけ。こんなところで布教活動かといぶかしげに視線を送ると、いわく【あなたは神を信じますか、神は自ら助くる者を助けます】溺れるもの藁をもつかむ、地獄に仏とはまさにこの事、生来がなまくら者で性根が座らない性質だから「オー神よ弱い私をお試しか」思わず手を上げ「神のご加護を」とすがりつきそうになった。だがロングレース初出場の喜びに燃えてハイテンションだったからかぐっと堪えて、上げかけた手で額の汗をぬぐい、負けてなるものかとジープをやり過ごし幌延のゴールを目指した。
 しかし、ヨレヨレの私がよほど苦しそうに見えたのかUターンして戻ってくるではないか、「あなたは神を信じますか」とイントネーションが頭につく発音で再度呼びかけられ 正直、もうだめだ先祖伝来の浄土真宗を棄教してキリスト教へ宗旨替えをしても良いと思った。サディステックに体をいじめるのはもう止そう、楽になろうと・・・・何と言うことだろう、そこへサポートの車が幌延方向から戻って来るではないか「遅いぞがんばれ」と水の補給。間一髪で信心の篤い母から勘当されずに済んだ訳だが、しかし冷静に振り返るときっと乗らなかったと思う。いや思いたい。それは、練習とはいえ達成感を放棄したくなかったから、ゴールで待つ仲間と笑顔を共有したいから、そこに潜む力は微弱だったが求めたのはレース本番を笑顔でゴールすること、そう願わなくば成就しない。イメージトレーニングとは己の弱さを克服する方法だと思う。 さて本番の大会はヨレヨレだったが制限時間内でゴールできた。寄る年波に勝てず競技をリタイアして3年が経過した。ウエストはどこ?締まりのない体型だが当時を思い出し何事へもチャレンジスピリットだけは持ちつづけていたいと思う。
 あの時薄弱な意志を試してくれたサロベツの神に感謝してペンを置く。