地方都市印刷会社の挑戦
木野瀬印刷株式会社 代表取締役 木野瀬 吉 孝氏
印刷会社が文化の担い手となるには
自分史・自費出版サポートセンター
お節介やきの社長
印刷会社のコンテンツビジネス
コラボレーション上手な会社は生き残れる
メディアフロンティア
1社では何もできない
理念の共有
特徴のない会社が武器を持つには
印刷会社が取り持つコラボレーション
地方都市印刷会社が実現した海外進出
大連光進技術有限公司
中国の可能性
おもいやり

印刷会社が文化の担い手となるには
 私は、いろいろなミュージカルやステージを見るのが大好きです。そこで8年前、当社の創業50周年に劇団四季を春日井市に呼びました。
 劇団四季は、全国公演を行っており地方都市には来てくれないのですが、名古屋市で見られない人のためにと、何度も何度も交渉を重ねて漸く公演に漕ぎ着けました。公演の売上げは全て春日井市の文化振興基金に寄付をしました。
 社員との感動、また感動を地域の人達と分かち合えないような経営者は駄目です。特に印刷業の経営者は大事です。営業の方も一緒だと思います。いろいろなものに感動して涙を流せるような感性がなければ、先ほど話をしましたような細かい提案、相手の立場にたった提案は出来ません。
 我田引水の提案はどれだけ出来ても長続きはしませんし、結果も生まれません。お客様の立場に立った提案が出来るのは、感動できる感性を持った人にだけ出来ると思います。

自分史・自費出版サポートセンター
 平成11年11月11日に春日井市に文化フォーラムという建物が出来ました。私どもはその建物の前に自分史・自費出版サポートセンターを開設しました。もともとその建物の前に私どもの営業所があり、軽オフの印刷機を一台置いて近所の人達の印刷に応えるということをやっていましたが、その時に機械を出して中を改装してサポートセンターに変えました。
 そうすると講座が終った人がそこに来て自分史の相談をするようになりました。その時に感じたことは、これはいいなと思って始めましたが、実はつまらなかったのです。何故かといいますと70歳過ぎの爺さん、婆さんが死ぬ前に自分史を作りたいということでしか来ませんでした。しかし、自分史というものはそういうものではありません。自分が一番輝いたことを書いたり、一番想い出になることを書くのも自分史だと私は思い、一生懸命PRしたのですが駄目でした。
 そこで翌年、ジャンルと世代を広げなければいけないと考えました。それにはどうしたらよいかということで出来たのが、漫画、イラストで綴る自分史コンテストでした。それは自分の一番輝いた頃のことを漫画、イラストで綴ってみませんかということで呼びかけたところ、凄い作品がたくさん集まりました。
 それこそたった一日の想い出を書いた人もいましたし、戦争の想い出をもの凄いペンのタッチで書いた人もいました。下は7歳から上は78歳まで一挙に世代が広がりました。78歳の人がMacを使って応募されたのには驚きました。
 翌年、第2回を行おうとしましたら、春日井市が予算を半分持つから春日井市が主催で木野瀬印刷は協賛で行わせてほしいということになりました。
 これで分かったことは、最初の企画はテレビ局が取材に来ていろいろなニュースで流してくれましたが、市が主催になったら見向きもされなかったということです。行政というのは折角良いことをやっても関心をもってもらえないのだと感じました。
 しかし、春日井市が一緒にやってくれたおかげで裾野が広がり良い作品が出てきました。手書きのもの、Macのもの、漫画、イラスト何でもOKですから、墨絵で書いてくる人、パソコンを駆使してくる人、プロまがいの人、皆楽しい作品ばかりでした。
 結果、私どもの意図する自分史というものの認識が少しは変えられたと思います。

お節介やきの社長
 私は非常にお節介やきの経営者であります。18年前私が社長になったとき、どうしても学卒の営業を入れたいと思いました。私は5年間、日本紙パルプ商事でサラリーマンをしていましたが、今の会社に戻って来て逆カルチャーショックを受けました。JPの周りの人間より木野瀬印刷の社員は何倍も働いているのに、何倍も労働条件が悪く、給料も低かったのです。これを改善しようと試算してみたら、改善したら一年で会社が成り行かなくなることが分かりました。
 週休2日制が言われ出した頃、ある紙屋さんのグループに会ったら、木野瀬さんのところの休日どれくらいと言われ、やっと100日になったと言ったら、印刷業で100日は凄いと言われましたが、実は彼等は完全週休2日制であり、よくやっているねという感じでありました。これではいけないと思いました。
 同時に、学卒で入って来た社員が、10年後にお前は騙されて入って来たといわれる会社では駄目だと思いました。
 そこ頃から、私は新入社員の家庭訪問を続けています。中途採用も23歳以下の人は家庭訪問をしていますので、延べ100人以上になっていると思います。家庭訪問をし、親御さんとその子の昔のことやいろいろなことを話していると、この子は怒鳴りつけても良い、この子は怒鳴りつけてはいけないということが分かりますし、家族が私どもの応援団になってくれます。
 でも実際は、経営者に挨拶に来られるのは鬱陶しいと思います。しかし、2つ利点があります。
 一つは、私どもの会社の理念が理解してもらえます。もう一つは、何処の家も玄関が綺麗になります。私が行くというので掃除をするそうです。こんな2つの利点があります。
 そんなお節介やきの社長ですので、先日も結婚で退社する女性社員に、結婚式に招待してくれるなら彼氏を紹介してと言ったところ、そんなこと社長おかしいですよと言われました。おかしいかもしれないが、俺の性格だし、俺みたいなお節介やきはいないのだから、そんなことうちの会社に入った時点で諦めろよ言ったら、そうですよねということで、一緒に食事をしました。
 最初に家庭訪問をした時は、内定を出した段階で挨拶に行きました。そうしたら何処の親も私がわざわざ挨拶に行った後に反対します。東京の6大学を出て一部上場の会社が決まっているのに、近所のこんな小さな印刷会社、きっと騙されているということでした。実際騙していると思います。今でこそ私の方が親御さんより年上になるケースが多くなりましたが、18年前は20以上も年齢の違う若造がご子息の将来を預けてくださいと言っても信用されるわけがありません。一杯反対をされました。その反対にもめげず社員は来てくれました。
 2年前のことですが、当時一番反対されていた親御さんが亡くなる1週間前に、社員がお母さん俺いい会社に入っただろうと言ったら、絶対に恩返しするんだよと言われたという会話を聞かされました。お節介やきもここまでくれば許してもらえるのではないかと思います。
 そんな社員に囲まれていますから、逆カルチャーショックを受けてから私の考え方は、こんな会社だからこんな給料、こんな給料を払うのだからこんな仕事をやろうと逆のサイルクで回し始めました。
 多分、何処の会社よりも早く週休2日制を成し遂げたし、大手と遜色のない給料体系、昇給体制を整えました。
 今も、それを何とか維持しています。それは社員達が頑張ってくれているから出来るのです。時々私に意見を言って来ますが、本当に素直な良い社員ばかりです。そんな彼等と一緒に仕事をしているので、今まで話をしましたようなことがきちんとお客様に伝わりやって来られたと思います。
 先ほどから話をしていますことは全部失敗が付き物でした。自分史をやろうとしても世代の失敗があったり、いろいろと思惑と外れたこともありました。でも成功します。それは何故かというとお客様の立場にたった考え方、提案が私どもの社員全員が出来るからです。誰から給料を貰っているのだと言うと、必ずお客様からと言ってくれます。私は、時々、経営者として給料を払っているという意識になることがありますが、それはいけないと思っています。

印刷会社のコンテンツビジネス
 印刷会社のコンテンツビジネスですが、おそらく皆さんが想像するコンテンツビジネスはデジタル地上波とかマスコミに取り上げられている大掛かりなものだと思います。
 しかし、印刷会社のコンテンツビジネスはジャンルが決まっていません。ジャンルが決まっていないものはどうすれば良いかといいますと自分で決めればよいのです。これは不可欠です。
 レジメに先ず実践と書いておきました。私はホームページの受注もコンテンツビジネスだと思っています。私どもはホームページの受注は行っていましたが、役所にホームページの受注の登録を出していませんでした。一昨年、名古屋で札幌凸版印刷(株)の花井社長さんの講演があり、私どもから10数人が聞きに行きました。その時に皆さんホームページの入札資格を取ってくださいという話をされました。
 そうしたら私どもの社員は素直なものですから、直ぐ春日井市役所へ行きホームページの登録の手続きをしました。そうしたら何と2週間後に市のホームページのリニュアルの入札に呼ばれました。多分、これを知っていて登録しに来たと思われたのかもしれません。その結果250万円で落札をしました。先月もデジタル博物館というホームページを落札しました。
 どうしてそのように続けて落札ができたかといいますと、コンピュータソフト会社は殆ど全部丸投げでやっていますので、一つ一つがもの凄くお金がかかっていますし、一人工いくらという見積ですのでどうしても高くなります。
 我々はどうすればよいかといいますと、Flash等のソフトが若干使えて、ホームページのデザインができるオペレーターを養成して、あとの細かいソフトの開発はソフト会社に丸投げすればよいのです。そのソフト会社と緊密な関係を持てば営業にも行ってくれます。そうするとそういう金額で落札しても十分利益が上がります。
 それと同時にそれに派生していろいろなものが出来ます。デジタル博物館はいろいろな博物館構想をネット上で行おうというものです。問題になりましたのは春日井市の文化財とか古い活版印刷の膨大な本の入力でした。後で詳しく話をしますが、私どもはそれを中国で入力をさせ、中国で校正をさせました。中国は技術精度が高く99.99%の精度で返って来ますのでお客様は校正をする手間がかかりません。1万字に1字間違っていても気づいた時に直せばよいというのがネット上の良いこところであります。生命に関するようなことはそんなことはあってはなりませんが、その程度のことはそれで十分であります。
 そういう入力が一番得意なところはどこかといいますと印刷会社です。そこの行政のことを一番知っているのは、そこに出入りしている印刷業者です。ソフト会社は何も分かりません。何処に文化財があって、何処に何が保存されているのかなにも知りません。行政の入札に参加している印刷会社の営業マンは大体のことは分かります。
 先ず実践です。行動を起こすかどうかであります。多分、その時に花井社長さんの話を聞いていた人は120〜130人くらいはいたと思いますが、行動を起こしたのは私どもの社員1人だけだと思います。どんなことをしても、どんなことを聞いても、実践をしなかったら一歩も進みません。そういうことだと思います。

コラボレーション上手な会社は生き残れる
 平成13年に通産省が経済産業省に名前を変えました。それまで我々印刷業の所管は紙業印刷業課でありました。今はソフト開発等と同じ括りで文化情報関連産業課になっています。国がそう思うのは勝手でしょうではありません。国は印刷業者の一番のお客様で、多分日本一のお客様です。
 そういう目線で戦略を組み立てます。24時間365日ノンストップ、ワンストップの行政サービスを始めようとする時に、その中に組み入れられたら我々の意識を変えて行かない限り何も生まれて来ません。ですから旧態依然とした考え方ではなく先ず実践です。そしてその方法として出て来るのがコラボレーションです。

メディアフロンティア
 印刷業がいろいろなことを手がけようとする時、何かを行おうとする時に自社だけで出来るものは何もありません。今、私どもはコラボレーションに真剣に取り組んでいます。それはメディアフロンティアという組織の中で広がっています。
 メディアフロンティアは、2年前に三菱商事とNTTが筆頭株主になって資本金3億5千万円で設立されました。その時に私にも出資してほしいと同業者の仲間から強烈な依頼がありました。こんな大手が参加しているのだから絶対に良いので一緒にやろうということでした。先ほどの話ではありませんが、私は大手を信用していません。大手が小さな印刷会社のことを考えてシステムを構築するわけがありません。したがって会員にもならなければ出資もしませんでした。そうするうちにどういう状況になったかというと、三菱商事とNTTが撤退することになりました。株は二足三文で売って、会社は存続させても良いが潰す方向でした。その時、私は出資をし融資もしました。何故かといいますと組織と思想は凄く良い会社であったのですが、ただやっている人間が悪かっただけです。自分のシステムを売ることしか考えていませんでした。お客様の立場より月10万円の会費のことを優先していました。皆さん10万円払ってやりますか。コラボレーションができる、いろいろなことがネットで出来るとか、そんなことを催眠商法のように大掛かりなプロモーションを見せつけて不安感を煽って勧誘するようなものは駄目です。ですから現在のメディアフロンティアは、従業員50人以下は会費が月1万円、月1回必ず中部圏か名古屋で会合を持っています。どんでもない製本からとんでもない広告の方法など印刷関連のいろいろなプレゼンテーションが来ます。我々が持っていけばお客様が絶対喜ぶと思うようなものがわんさと来ます。
 先週の土曜日もシンポジュームを開催しました。シンポジュームを開催するにあたりブースを作ろう企画しましたら、何と60社のブースが集まってしまい急遽大きなところに会場を変えました。シンポジュームはどうせ人は来ないのだからと思い60人の会場を用意し、当日会場を見てびっくりしました。40〜50人の人が立って見ていたのです。私は早く帰らないと疲れるだろうなと思っていましたが30人くらいの人は最後まで立って見ていました。3つのセミナーを開催しましたが3つともそういう状況でした。その会場に来ている人は若い人が多く、経営者の方も全国から来ていました。そこで感じたことは、コラボレーションということが漸く分かってきたなということであります。自分の会社だけでは何も出来ないということです。
 皆さんは自分のところの情報を他人に提供しますか、コラボレーションが何故大事かといいますと、今皆さんの持っている情報はどんなに最新のものでも3ヵ月もしたら陳腐なものになるということです。今はそういう社会です。3ヵ月の間に出来るだけ共有して広めて、また新しい情報を仕入れて次の展開をしなければ駄目な時代です。設備もそうです。私は信頼できる会社に機械が入ると喜びます。これは俺の機械だというくらいに気持ちで使ってやれば、コラボレーションはもの凄く上手く行きます。

1社では何もできない
 私どもの会社では、昔でしたらお客様の所に行くのに何かを企画したいという時にその会社の企画を一生懸命聞いて、取材して、企画書を作って行きました。今はそういうことはしていません。コラボレーションを決め込んだ会社に全部企画書を作ってもらいメールで送ってもらいます。社名を私どもに変え、内容を少しアレンジし許可をもらいます。プレゼンテーションをする時にはそこの社員にも一緒に行ってもらい、堂々と名刺も出してもらいます。お客様は木野瀬印刷に頼んだのに下請けを連れて来たとむっとしたケースも昔はあったのではないでしょうか。しかし、今は違います。パソコンで説明する時にもたついたらこの人大丈夫かと思われます。ですからデザインは私どもでやりますがシステムはここでやりますと言ったらお客様も安心をします。今の世の中、誰も1社でいろいろなシステムを完結できるとは思っていません。コラボレーションの相手が印刷会社であろうが、システム会社であろうが、デザイン会社であろうが堂々と名刺を出させます。説明するときもパソコンでやってもらいますのでスムーズに行きます。お客様に違う画面を見たいと言われた時に当社の営業マンだと戸惑うかもしれませんが毎日それしかやっていない人を連れて行けば安心です。

理念の共有
 メディアフロンティアは、今100社を超えて、200社を目指しています。私は200社集まった時の構図として、力があるところ70社、やる気があって力のないところ130社にしたいと考えています。コラボレーションは力のあるところだけが集まっても仕方がありません。何故かといいますと使うところがなければ駄目だからです。また、使うところはやる気がなければ駄目です。
 やる気があって武器の無いところは一杯あると思います。そこは武器を借りればよいことです。そういうことによって陳腐化される情報も早くお客様のところへ届けられ、早くいろいろな良い案が出せます。コラボレーションを真剣にやって出した情報は3倍にも5倍にもなって返って来ます。それが今の情報化社会です。ただし、コラボレーションについて、メディアフロンティアの中で決めていることがあります。どんな大手でもお断りすることがあります。それは好き嫌いです。要するに理念がもの凄く大事です。コラボレーションはある意味丸裸になることであります。相手のためにいろいろな情報を捧げることであり、利用させてもらうことであります。それを理念が共有できない相手とやっていると面白くありません。そういう意味で理念が共有できるかどうかであります。私は単純に好き嫌いと言っていますが、そんなことをやりながらメディアフロンティアを運営しています。
 メディアフロンティアは多分、北海道でも展開していくと思います。皆さん自身でやれといえば大変ですが、きちんと事務局を設営してありますので、案内を出して北海道にも本州からプレゼンテーションに来ると思います。
 このメディアフロンティアも失敗からスタートしている良い例ではないか思います。

特徴のない会社が武器を持つには
 私どもでは、以前から小型機にはCTPを導入しており、ページ物の仕事も多いので、一昨年、菊全にもCTPを導入する検討を始めました。私どもは1ビットTIFFのシステムをとっていましたのでRIP処理は社内にあり、レコーダーをどうするかでした。当然メーカーは売リ込みに来ますし、社内的にも月600〜700版はあるので無くては駄目ということでしたが、私はどうしても踏み切れませんでした。そうこうしているうちに私どもから2kmくらいより離れていない協力会社がCTPを導入することになりました。そこの稼働率は20%くらいとのことでしたので、私どもがそこを使えば15%くらいは稼動率が上がると計算をしました。そこで、私どもは1ビットTIFFのデータだからノンリスクで出力できるので、この価格でやってほしいと言いました。こんな安い価格のCTPの焼代はないと相手はびっくりしました。考えてみてください。例えば2000円でやったとします。2000円のCTPの焼代は安い、これは違います。刷版は何百円です。それをリスクは無く出すだけです。1000円が工賃としたら、600版でどうなりますか。60万円です。ですから最初に言ったのは、貴方のところのオペレーターの人件費は私どもが払うのだから私どもの仕事をやってほしいということでした。私どもは少なくても3年間はCTPを絶対に導入しないから安心して仕事をしてくださいということで始め今も順調に続いています。
 その時にCTPを導入していたら4000万円近くかかったと思います。それに代えてDocuTechを1台追加しました。私は10年くらい前から考え方として設備投資をするときにこの設備を入れたらお客様は喜ぶだろうかということを判断基準にしました。その時もそうでした。CTPのレコーダーを入れてお客様は喜ぶだろか。別に何処で焼いても一緒ではないのか、私どもがCTPを導入したと言っても喜んでくれるお客様の顔が誰一人として浮かびませんでした。でもDocuTechを1台増設することで、緊急なものにも間に合うし、新しい提案も出来ます。基本はメーカーの意向ではなく、お客様が喜んでくれるかどうかです。コラボレーションの原点はそういうところにあると思います。
 高い機械をメーカーに洗脳されて買ってしまうのではなく、本当に共有できる環境を作ってみたらどうなるかです。そうするといろいろな武器がもの凄く増えて、いろいろなことを順調にお客様に提案できます。これだけの人数の印刷会社の人が集まっていたら出来ないわけがありません。ただし、嫌いな人とはやらないことです。嫌いな人とやると何か利用されているのではないかという被害者意識が出て来ます。皆さんもコラボレーションに是非取り組んでください。

印刷会社が取り持つコラボレーション
 私は先ず形から入るものですから、札幌に来たらラーメンということで、昨日ラーメン横丁に行きました。食べ終って帰りにポケットティッシュと飴をくれました。丁度、熱いラーメンを食べて鼻水が出ていたので、ラーメン横丁だけあってやっぱり凄いなと思いながら裏を見たら武富士でした。駅前で配ると嫌々もらいますが、ラーメン屋でもらうともの凄く感謝をします。ラーメン屋は武富士から手数料をもらっているかどうかは分かりませんが、ラーメン屋は何も損をしていないし、これも凄いコラボレーションであります。こういうことを私がやらなければ駄目だと感じましたし、こういうことができるのは印刷会社です。コラボレーションは大掛かりに企業対企業だけでなく、こういうこともあると思います。

地方都市印刷会社が実現した海外進出
 中国の大連光進技術有限公司のパンフレットを配っていますが、この会社は17人でやっています。どうして海外に進出したかといいますと、昨年の4月だったと思いますが教科書の改訂がありました。私どものお客さんに学参メーカーがありました。問題集というのは教科書ごとにあり、10万ページの問題集を持っていました。これを全部改訂しなくてはならないが、これを日本でやったらとんでもない金額になります。学参の組版は難易度が高いのでページ7千円〜8千円かかり、全部で7億円〜8億円になります。それを中国でやるという相談を受けました。
 先ず、私がしたことは、すぐに中国へ行こうということでビザを申請して2ヵ月後に行きました。そして中国のパソコン教室の隣に入力センターを設ける準備をし、そこの指導には私どもの社員を派遣し、西安と大連で始めました。今は殆ど大連だけです。最初は変な入力をしていましたが、3〜5ヵ月経つと殆どの人が、私どものオペレーターと同じ速さで日本語入力が出来るようになりました。そういう環境が中国で生まれました。その10万ページが完成すると、今度はアナログで眠っている法令集等の膨大なものに利用できるということで手がけました。日本で入力、編集するのとかわらない出来映えになりました。

大連光進技術有限公司
 これを活かさない手はないと始めたのが昨年設立しました大連光進技術有限公司です。学参メーカーの社長がそこの社長になり私が副社長になりました。従業員は17人ですが、17人以上に増やさないよう指示をしています。なぜ増やさないかといいますと受け皿がたくさん出来たからです。大連はITの街で、東北財経大学というIT専門の大学が出来ました。出来たばかりなのに6000人の人が午前8時30分から午後5時までびっしりカリキュラムが組まれ全寮制で教育が行われています。大学の周りにはソフトウェアパークという壮大なソフトウェアのエリアがありITのいろいろな会社があり、東北財経大学は中国の年収分くらいの学費がかかりますが、卒業するとそこの何処にでも入れます。私どもはそのエリアの会社と入力を行うシステムを構築することが出来ました。そうなると10万ページの入力はすぐに出来、100人、200人の体制が出来てしまいました。そういう会社を3社くらい契約してきちんとセキュリティをかけています。大連にあるゼネラルエレクトリック社のセキュリティは完璧でびっくりしました。ほのぼのレイクやエジソン生命の入力をそこでやっています。例えば、私がほのぼのレイクから借りて、木野瀬印刷と書いて住所はいいかげんでも大連で木野瀬印刷の正確な住所が出ます。自宅の住所がいいかげんでも電話番号が正確であれば2時間後には完璧なデータにしてしかもセキュリティをかけて送り返して来ます。そんなことがもう可能になって来ています。もっと驚いたことは、コールセンターに電話をすると少し訛りがあると思ったら大連で受けていました。それくらい近い国になっています。また、進出した当時は名古屋からの直行便はありませんでしたが、今は週3便あります。私どもの会社から名古屋空港の国際線まで車で3分です。行きが2時間20分、帰りが2時間くらいですので、札幌に来るのに1時間35分ですからあまりかわりません。最初のころはFAXでやり取りをしており見難いとか何とか言っていましたが、今はブロードバンドの時代です。サーバーにダウンロードしておけば向こうで勝手に読み込むという本当に良い時代になりました。
 ただ問題になるのは、あまりにも安い仕事を受けた時です。この間、手書きの5万件くらいのお歳暮の注文書をデータべース化するという仕事を1枚40円で受けました。そうするとそれを送るのに人件費をかけコピーした時点で赤字になります。それでどうしたかといいますと99%紛失はしないと思いますが、それはリスクとしてほしいということで、それをそのままダンボールに入れて送りました。郵送料も別途もらいました。それで中国で入力して送り返してもらうことを行いました。

中国の可能性
 日本人は見本通りということが好きですが中国では通用しません。中国人はマニュアルどおりで、何字空きとか一度決めたことは手書きであろうと何であろうときちんとやります。日本人はアバウトなことをやり二校、三校と分かり難い直しをやらされお客様にサービスをし過ぎています。よく原稿は手書きで良いかと聞かれますが、日本人が読める日本語であれば大丈夫と答えています。そしてマニュアルをきちんとしてあげれば仕事をきちんとします。
 今はもっと進んでおり、直しを瞬時に行うためテレビ電話システムを使っています。例えば、見出しの書体が違っていたとしますと、テレビ電話を使い、これ書体違うよと言うとその場で直しそこで確認するという、もうそういう時代です。
 もし皆さんの中で、もうストリップフイルムも無くなって来ているしと悩んでいて、CTPに変えようかと考えている人がいましたら、思い切って大連で入力をし直してください。大連の良いところは精度の高いことです。この間、長野に行ったら、在宅の方がもっと安いということでした。昔でしたら中国は安いと言われましたが、今は中国はきちんと仕事をするのでその値段では出来ませんという、そんな時代です。
 それと同時に、我々が入力するとき一番困るのは校正であります。中国は校正スタッフが入力する人と同じ人数またはそれ以上の人をつけます。そして校正スタッフの方が入力する人よりレベルが高い人が就きます。そういう体制でやりますから精度の高いものが生まれるのです。
 こんな小さな地方の印刷会社は、こういうことを何かきっかけにして出来るということは好奇心です。その学参メーカーとの取引は多くはありませんでした。何故かといいますと価格だけの付き合いであったからです。その社長さんは気を使ってくれていましたが、私は積極的な営業は出来ませんでした。私どもと付き合うメリットが与えられなかったからです。
 しかし、こうなったら与えることができます。フイルムレスにしましょうか、こういうシステムにしましょうかということで、全部変えてしまいました。また、塾ごと難易度に応じてオンデマンドでページの組替えを行いました。そういうことができるオンデマンドシステムも同時に確立しました。そうすることによって初めてお客様の役に立つことができ、取引も増えてきます。人間関係だけで、親しくなって、酒を飲んで、ゴルフをやって仕事をくださいという印刷会社は横暴です。仕事をくれないと冷たい会社だと言います。冷たい会社でなく冷静な会社なのです。我々は、本当に提案できるものが出来て、初めていろいろなことが出来ると思います。

おもいやり
 最後に、私の知り合いの経営コンサルタントが東京ディズニーランドの近くのレストランの話をしていましたのでご紹介したいと思います。
 そこのレストランに若い夫婦が食事に来て、二人分の食事以外にお子様ランチ頼んだそうです。普通お子様ランチはお子様に限りというのが多いのですが、そこのウエイトレスは分かりましたと言って注文を受けたそうです。だけど二人分の食事以外にお子様ランチであったので、ナイフとフォークを持って行った時にどうしてお子様ランチをお二人で召し上がるのですかと聞いたそうです。そうすると、実は今日は息子の命日で、息子は東京ディズニーランドが大好きで、その帰りにいつもここでお子様ランチを食べていたので供養のために寄ったとのことでした。そうしたらそのウエイトレスは何をしたかといいますと、お子様用の椅子を用意し、食事のセットをワンセット揃えたそうです。若い夫婦はもの凄く感謝して帰ったそうです。
 この話を聞いたとき何を思ったかというと、そこのレストランの経営者は凄いなと感じました。多分そういう思想の経営者であったと思います。それを実践したウエイトレスも素晴らしと思います。
 私達は、お客様にいろいろなものを提案しています。一生懸命頑張っています。経営者の方も営業の方も知恵を絞って日夜頑張っています。しかし、もっといろいろとやることがあるのではないでしょうか。そういう木目の細かさ、相手の立場にたった配慮をして初めて先ほど言った信用が得られ、お客様がリピーターとなってくれるのではないでしょうか。そんな考えがお客様に伝われば、またその先のお客様に感謝され、我々のクライアントは発展するのではないかと思っています。
 長々と偉そうな話をしましたが、少しでも参考にしていただき北海道の皆さんが素晴らしいネットワークの中でコラボレーションを発揮していただき発展することを祈念したいと思います。
 ご清聴ありがとうございました。