印刷燦燦
「キャッチするフレーズ」

副理事長、教育・技術委員長
飯村 俊幸
飯村印刷株式会社代表取締役社長

 時として、何とはなしにふっと頭をよぎるキャッチフレーズがある。
 一つは、もう40年ほど前にトヨタ自動車が売り出した国民大衆車パブリカのもの。曰く『これ以上は無駄、これ以下では無理』。つまり必要にして十分条件を満たしているということである。まさにジャストサイズ、これ以外に選択の余地無しとその商品の妥当性を強烈に訴えかけている。筆者も何かを選択する際にこのキャッチフレーズに因る場合がよくある。そして都度これを作った言葉の魔術師に脱帽させられるのである。
 いま一つは、何の業種だったか忘れたが(印刷業かもしれない)、その会社のそれは『遅い、高い』。むろん納期は遅く、価格は高いの意である。この何ともインパクトのあるキャッチを見て、客の反応は是か非かはっきり二分される。「何を考えているんだ、じゃ他社に頼むよ。」と不快感を示す客と、「何という自信だろう、きっと独自のノウハウで他社にはできない物を作ってくれるに違いない。多少遅かろうが高かろうがその商品のもつ付加価値を鑑みれば高いとはいえない。いやむしろ相対的には安いのではないか。」と考える客である。この会社の経営者はマーケットを見事なまでに見切っているのである。きっと卓越した経営戦略を持っているのだろう。この時代どっちの客が多いかは言を待たない。しかし、物質的に安物が横溢しきった現在、次の段階として物の質や生活に豊かさをもたらすデザイン等に拘泥する客がだんだん増えてきているような気がする。これは明らかに日本が成熟社会に移行する局面を迎えているからだと思う。そんな状況の中で、この会社の支持層は今はマーケットのごく限られた一部ではあっても、必ずやだんだん増えていくに違いない。ある意味いつかは打ってみたい憧れのキャッチフレーズである。
 キャッチフレーズは、その商品や会社の特長や理念を表現してユーザーの心に訴えかける投げ玉である。当然、作り手や経営者がそれをとらまえていなければ訴求などできっこない。全印工連2005計画もすでに後半に入ったが、改めてテキストを繙いてみると冒頭「自社を知るチェックリスト」とある。自社を知り、ユーザーを知り、そこから経営理念・戦略を策定する。そしてキャッチフレーズで己の存在を強くアピールする。
 こんなこと、今から始めても決して遅くはないと思うのである。